大判例

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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1184号 判決

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人らに対し、原判決別紙請求金額一覧表の請求金額欄記載の各金員及び同表の遅延損害金の発生する内金欄記載の各金員に対する同表の遅延損害金の発生する日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、郵便局の保険外務員が、簡易生命保険の加入者である控訴人ら(亡望月清関係については同人。以下同じ)に対し、虚偽の口実を設けて保険の解約等と解約金等の預け入れを勧誘し、控訴人らから金員を不法に領得したとして、民法七一五条に基づき、控訴人らが被控訴人に対しその損害賠償を請求する事案であり、争いのない事実及び争点は、原判決の事案の概要欄記載のとおりである。

第三証拠関係<省略>

第四争点に対する判断

当裁判所も、志村らの本件行為は被控訴人の事業の執行につきなされたものとはいえず、また、控訴人らには、職務権限内の行為でないことを知らなかったにつき、重大な過失があるというべきであるから、被控訴人に民法七一五条の責任を問うことはできないと判断する。

その理由は、次に記載するほか、原判決の争点に対する判断の項に記載のとおりである。なお、原判決二八枚目裏末行の「郵便局組織規定」を「郵便局組織規程」に改める。

一志村らの控訴人らに対する勧誘の態様について

控訴人らは、本件訴訟において、おおむね、志村らは「局の組合」あるいは「国の組合」に預けてもらいたいとは言ったが、労働組合に預けてもらいたいとは言わなかったと供述し、志村及び仲村も本件訴訟においては部分的に右に近い証言をしている。

しかし、志村らは、捜査段階においては、いずれも原判決に認定のとおり「郵便局の労働組合では高い利息でお金を預かっているので、預けてもらいたい」などと申し向けたと供述しており、控訴人らも、捜査段階においては、おおむねこれに近い内容を供述していた。

そして、志村らの捜査段階における供述は、犯行を任意かつ全面的に自白してその詳細を述べたものであり、控訴人らの供述との間に食い違いのある部分はこれらと対比して質問がされているのであって、特に捜査官に迎合するなどによる虚偽の供述がされたとはうかがえないのに対し、志村及び仲村の本件訴訟における証言は、相当あいまいなものであって、捜査段階における供述よりも信をおくことはできない。また、控訴人らの捜査段階における供述も、自ら被害の状況を積極的に述べたものであって、捜査官が意識的に誘導したものとは認められないのに対し、控訴人らの本件訴訟における供述は、被害に遭ってから相当年月を経てからなされたものであって、記憶が鮮明でないところも少なくなく、また、多かれ少なかれ本件訴訟を意識したものとなっている。

また、志村及び仲村の証言、控訴人ら及び志村らの捜査段階の供述によると、志村らは、全逓信労働組合あるいは全郵政労働組合という特定の労働組合の名称を出したことがあるとは認められないが、労働組合という言葉を用いたことも多く、また単に組合と言うときも、職員の加入する組合がその内部で職員に貸付をするなどと説明し、自分たちがその役員であると言ったりしているのであるから、志村らが労働組合あるいは任意団体としての職員の組合の趣旨で組合という言葉を使っていたことは明らかであり、控訴人らもそのように理解していたと認められる。少なくとも、貯蓄に関する国家の機関というような意味で組合という言葉を使ったものでないことは明らかであり、控訴人らもそのような意味で理解したわけではないと認められる。志村らが勧誘した組合への預け入れの金利は通常の預貯金では考えられないような高利のものであり(しかも、多くは利率として明定されたものではなく、九〇万円預ければ一年で一〇〇万円にして返すといった、いわば個人間の貸借に類するおおざっぱな定め方である。)、また、預けた金員について志村らの手書きの借用証や預り証が交付されただけで、組合からの証書類を一切交付されていないし、控訴人らはこれらを確認しようともしなかったのであり、志村らの勧誘が被控訴人の郵便貯金事業とは関係のないものであることはこの点からも明らかであったといえる。

二保険課外務員による貯金の集金について

貯金の集金が志村らの所掌外であったことは、原判決認定のとおりであるところ、控訴人らは、当時、保険外務員が貯金を集金することが便宜扱いとして現実に行われていたと主張するが、<書証番号略>によっても、右のような行為が外務員の職務として一般的に行われていたと認めるには足りないし、他にこれを認めるべき的確な証拠はない。また、控訴人らが、本件以前に志村らあるいは他の保険外務員に対し、郵便貯金の預け入れをまかせたなどの証拠も全くない。

そうすると、保険外務員である志村らが控訴人らに組合に対する預け入れを勧めた行為が、外形的にみて、郵便貯金の集金又はこれに類するものであるとの誤解を生じさせる行為であったとは認められず、控訴人らにおいてもたやすくそのような誤解をするものとは考えにくいところである。

三被控訴人の責任について

1  原判決挙示の証拠及び控訴人らの本件訴訟における供述によると、控訴人らはいずれも簡易生命保険に加入していたものであり、しかも志村らの勧誘によって加入した者が少なくなかったこと、志村らと控訴人らとは、簡易生命保険の業務を担当する保険外務員とその加入者という関係以外には個人的な関係はなかったと認められる。

また、志村らの本件行為は、郵便局の職員の制服、制帽を着用し、郵便局の自転車に乗って控訴人らの家を訪ねて来た機会に行われたものであるところ、控訴人らが志村らの言葉に騙さたのは、志村らが保険の外務員であって本件が右のような機会に行われたからであると認められる。

また、本件は、一部に控訴人らの手持資金を預けた場合もあるが、多くは、簡易生命保険を解約した金員や簡易生命保険を担保に貸付を受けた金員等を志村らに預けているものであり、その意味で、簡易生命保険の解約等の手続と志村らへの金員の交付は、一連の行為として行われている。しかも、保険料の支払が控訴人らにとって負担となっている状況を利用したものもあり、あるいは、相続税対策(死亡による保険金の支払に関する相続税も含む。)につけこんだものもある。

さらに、控訴人らは、その職業はほとんどが農業等であり、平素、商取引や企業活動などと関係のない者であって、本件の詐欺行為が成功したのは、こうした事情があることは否めない。なお、控訴人らの中には、当時七〇歳代の者(亡望月清、控訴人杉山葆)もいたが、控訴人杉山さち江は四〇歳代であり、控訴人らの多くは五〇ないし六〇歳代であるから、特に判断力の衰えた老人であるということはできない。

2 右のとおり、控訴人らは、志村らが国家機関である郵便局の職員であり、その勤務時間内に制服等を着用して本件犯行を行ったから志村らを信用したといえるのであるが、控訴人らの主張するところのいわゆる「制服の犯罪」であるからといって、そのことだけで当然に、組合への預け入れとしてなされた本件の金員の騙取行為が外形的にみて国の行う事業のための職務行為又はそれに密接に関連する行為であるといえないことはもとより、控訴人らがそのような職務行為であると信頼すべき根拠になるものとはいえない。

また、前記のとおり、本件の騙取行為は簡易生命保険の解約等と一連の行為として行われたものであり、志村らは騙取のための前段階ないしその手段として解約等を控訴人らにさせている。この点から、控訴人らは、右解約等そのものが不正な職務執行であると張する。しかしながら、志村らは、控訴人らから依頼された解約等の手続を正規に行い、これによって控訴人らに支払われることになった金員を騙取したものであり、右の手続を踏んでいることは控訴人らにおいて十分了解していたのであるから、右解約等に関する行為は、その動機について控訴人らに錯誤があったにしてもあくまでも控訴人らの意思の下に行われたものとみるべきであり、これをもって直ちに本件損害発生の原因となる不法行為ということはできない。志村らの不法行為の中心部分は、「組合に高利で預ける」と言って控訴人らを騙して右解約等による金員の交付を受けた点にあるというべきである。

そして、右のように組合への預け入れを勧誘し、解約金等の金員の交付を受けた志村らの行為が外形として被控訴人の郵便貯金事業に属するとか、志村らの正当な職務権限に属するとみられるようなものであるとかいうことができないことは、前記判示のとおりである。

3 のみならず、以上の諸事情から判断すれば、志村らの本件不法為がその職務権限内において行われたものでないことは、控訴人らの職業・経験・年齢を考慮しても控訴人らにおいて容易にこれを知ることができたというべきであり、控訴人らにはいずれも重大な過失があるといわなければならない。

第五結論

以上の次第で、控訴人らの本件請求はすべて失当というべきである。原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官岩井俊 裁判官坂井満)

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